kara1216_mathのなつやすみのにっき

私のなつやすみのにっきです。主に数学の話(読んだ数学書の進捗報告)をします(時々アニメと陸上の話もする)

「線形代数の世界」は良いぞってお話。

前々から少しやってみたいと思ってた本の紹介みたいな事を書いてみようと思います。(多分これが最初で最後)
長くて、つたない文章ですが最後まで読んでもらえたら嬉しいです。

今回は「線形代数の世界 抽象数学の入り口」についてお話したいなって思います。

最初に、この本と私の出会いを話します。(自分語りしてしまうおじさん良くないですね。)私の大学は1年の頃は専門が決まっておらず、2年になる段階で系所属と呼ばれる物がありそれで専門が決まります。私は高校数学がそこそこ面白いななんて思ってこの大学に来たので、とりあえずは数学系へ進学することを考えたのですが、「大学数学は高校数学と違う」とか大学入学時点でどんどん先のことを勉強している人がいるのを見て、数学系に進むのはやめて別の事やろうかしら?なんて考えてました。また、背伸びしていくつかの数学の本(解析学系統)を読んでみたけど、よくわからないし退屈だななんてなってました。(今読めば面白く感じるけどその当時は分からなかった)そんなときに受けた教養の線形代数(2Qの講義なので6月くらいからかな)の講義がとても面白かったのが転換点になりました。その講義は未だに内容を鮮明に覚えているくらい面白いものでしたが、それだけではなく、その講義の担当の先生のお勧めの線形代数の本のリストに「線形代数の世界」がはいっていました。そこでこれだけ面白い講義をする先生が面白いって言っている本が面白くないわけない、と確信し購入したのが私と線形代数の世界との出会いになります。
結局、B1で買って通読してから未だに時々目を通すくらい気に入ったのであの時の確信は間違えてなかったなぁなんて思います。この本を読んだことで結局最初の希望通り数学系へ進むことにしました。

自分語りはこれぐらいにしておいて、本の紹介をします。
線形代数の世界」は文字通り線形代数の本です。しかし注意点としては著者本人が前書きで書いている通り、基本的な行列演算や数ベクトル空間の具体的な内容にある程度慣れている方が対象らしいです。イメージとしては学部1年の教養の線形代数を終えたくらい?なのかしら。実際、この本は東京大学理学部数学科のB2の秋学期にやる内容が元になっているらしいです。なので教養の線形代数が物足りないよとか、もっと代数的な視点で線形代数を見てみたいなみたいな人にはオススメだと思います。

本の具体的内容としては、最初の1~3章で線形空間の公理からジョルダン標準形など(一般固有空間を用いて議論している。)を扱い、後半の4~8章では双対空間、双線形形式、(簡単な)群論、商空間とテンソル積などを扱っています。この本の主な特徴としては圏論的な視点で書かれていることです。まあ私は圏論全然知らないんですけど。特に前半はこの傾向は控えめですが後半の章からは教養の線形代数とは雰囲気が変わってきます。ここでは正確な事は述べませんが、「ある線形空間Vを調べることは、Vと任意の線形空間Wとの間の線形写像を調べることだ」という思想の元で議論が進んでいくイメージです。米田の補題を具体的に線形空間の圏に適用した命題とかも出てきます。また、2章で完全系列なども簡単にですが扱っています。(テンソル積の完全性やhom関手の完全性とかも名前は出されていないけど載っています。体上の場合なので自由加群ゆえ左右の違いはありません。)
とはいえ、前半の1~3章も今まで闇雲に計算したりしてた行列演算にこんな代数的な背景や幾何的な解釈が出来るのか!って読んでて感動しました。また、簡単にですが無限次元の線形空間についても扱っています。(選択公理の元で任意の線形空間に基底が存在してその濃度が一意に定まることとか、線形写像は基底の行き先のみで決まる事をちゃんと示している)
他にも、今私は可換環論とか興味が出てきて勉強し始めていますが、環上の加群とかをやる上で基底を取れるとは限らない場合が主ですが線形代数の世界はそれを意識してか、基底は取らなくても議論できる場合は基底を取らないで議論することがあります。この手の議論に耐性がつくのも大きいメリットです。これは逆説的に、基底を取っている主張は基底が取れることが本質的に効いている事が多いので、スカラーとしての体の性質がどこに効いているのか?が分かるのもありがたいポイントです。
また、抽象論だけではなく多くの具体例や具体的な演習問題がついています。しかも全問解答付きです。この演習問題だけでも買う価値あるのでは?くらいに思っています。これを一通り解いたおかげで院試の線形代数も大抵なんとかなりそうだなってなっています。(そうであって欲しい)

とても愛着のある1冊なので話し始めたらキリがないのでここら辺でストップしますけど、他にも色々な嬉しいポイントがあると思うので、ぜひ手に取って欲しいですね。ここまで読んでくれた方(もし存在すれば)ありがとうございました。